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第4話 龍泉寺詩乃の初めて(前編)

フェルステア【異世界転生帰還少女】
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真っ黒なエナメルハイヒールで愛玩動物を踏み潰すメイド

「えー……」

 土曜日。
 この日、龍泉寺家に仕える家政婦から衝撃の事実を耳にして、詩乃は愕然としてうなだれることとなる。

「お姉さま、今日も戻ってこないんだ……」

 理由はまさにそれだった。
 昨夜より、詩乃の姉である千乃は不在である。
 昨日は用事があるからと直接謝ってくれた姉だったが、今日まで続くとは思ってもみず、詩乃は悄然となったのだった。

「申し訳ございません。千乃様も、そのようにお伝えせよと、おっしゃっておりました。そして必ず埋め合わせをする、とも」
「うん……。仕方ないよね。お姉さまって、忙しそうだし」

 先日の一件より、詩乃は千乃のことをあらかた心得てはいる。
 事故に遭い、眠っている間、どのようなことになっていたのか。

 恐らく千乃は、もう一つの世界にいったん戻ったのだろう。
 詳しくは知らないけれど、あちらの世界の王様のような存在であると、そう解釈している。
 となると、すべきことも多いのかもしれない。

 詩乃はそう判断したが、事実は少々異なっていた。
 異世界に関しては、千乃はその統治と支配を、完全に配下に任せてしまっている。
 自分がいなくても、さほど困るというわけではない。

 それでも戻ったのは、昨夜のことが影響した結果だ。
 久しぶりに絶頂に身を震わせた千乃は、結局その後も興奮が収まらず、欲求不満を解消するためにあちらの世界に戻り、思うがままに発散しているはずである。

 結果、都市が一つ二つ壊滅することになるのだが、それはまた別の話であった。

「えっと、フェル……はいいの? お姉さまについていかないで?」

 やや遠慮がちに、詩乃はその家政婦へと尋ねる。
 その家政婦は、以前からこの家に仕えていた家政婦とは、まったく違う存在になっていた。

 名をフェルステア。
 あちらの世界の千乃に仕える、側近の一人であるという。

「私は詩乃様のお傍にあるよう、申し遣っておりますので」

 問題ありません、とフェルステアはそう答えた。

 完璧にメイド服を着こなしており、この世界にあってはやや浮世離れしている衣装ではあったものの、よく似合っていたと言っていい。
 そして何より美人さんだった。

「なんでもお申し付け下さいませ。詩乃様の身の安全に関わることでない限り、どのようなことでも遂行いたします」
「なんでも……そう。なんでも、聞いてくれるんだ?」
「はい」
「じゃあお姉さまの世界に行ってみたい」
「なりません」
「え~?」

 即座に拒否されて、詩乃は思わず声を上げてしまう。

「どうして?」
「危険だからです」
「危険?」
「はい。あちらの世界では、詩乃様を妬む者が数多くおります。今の詩乃様では、身を守ることはできないでしょう。そして詩乃様の身に何かあれば、世界が滅びます」
「はあ?」

 物凄い飛躍に聞こえ、詩乃は何度も瞬きする。

「どうしてそうなっちゃうの?」
「千乃様は詩乃様に会いたい一心であの世界を征服し、支配し、君臨してこの世界に戻ったのです。その目的を阻む者は全て抹殺されましたし、これからもそうするでしょう。しかし千乃様を崇める者は多く、その者たちにとって、詩乃様は羨望の対象なのですよ。千乃様の怒りを買うと分かっていても、暴走してしまうのです」
「いや……その、わたしってそんな風に思われているの……?」

 思わぬ情報に、詩乃は引いてしまう。

「ですからお気をつけを」
「うん……気をつけるけど……。えと、フェルはどうなの? わたしのこと、羨ましかったりしなかったの?」

 それは何気ない質問。
 瞬間、フェルステアの瞳に得も言われぬ殺気が走る。

「羨ましい――妬ましいですよ?」
「え?」
「今もなお、そう思っています。この言葉をもし千乃様がお聞きになれば、またわたしは首をもがれて頭蓋を踏み砕かれるでしょう」
「え、ええ? な、なに、また、って……一回されたの?」
「はい。最初に同行の命を受けた時に読心され、そのような罰を受けました」
「いや、それ死ぬでしょ……?」
「その程度で死んでいては、千乃様の側近は務まりませんよ?」

 こともなげにそう言われ、詩乃は唖然となる。
 やはり、自分とはあまりに異なる世界に住んでいる住人なのだろう。

「でも、それでもお姉さまが連れて来たってことは……それだけ信頼されているってことでしょ?」
「…………そのように、自負しております」
「じゃあ告げ口しない」
「――――」

 やや意外そうに、フェルステアは詩乃を見返した。

「フェルってばお姉さまのこと、とてもよく知っているようだし、わたしも知りたいし。あと、ちょっと……相談に乗って欲しいこともあるから」
「ご相談、ですか?」
「うん。こんなこと、恥ずかしくて誰にも相談できないんだけど、ちょっとぶっとんでいるフェルなら、大丈夫かなって」
「……ぶっとんでいる」
「あ、怒った?」
「いえ。それで、ご相談とは?」
「えと、実はね……」

     ※

 詩乃の相談はこうだった。
 先日、三人の男子生徒に囲まれた際に、千乃がそれを助けてくれた。

 そしてその手段は皆殺し。
 一片の慈悲も感じさせない所作で、うち二人を蹴り殺したのである。
 いや、蹴り殺すなどというのも生易しい。
 あれは一方的な破壊だった。

 そしてもう一人。
 もう名前も忘れたが、あの残った男子生徒に対し、詩乃もまた嬉々として暴力を振るい、そして――殺したはずである。

 しかしあの酔ったような感覚のせいで記憶は曖昧で、はっきりとはしない。
 むしろ夢だったのではないかとさえ、思ってしまう。

 だが思い出そうすると、確かにあの感覚が蘇ってくるのだ。
 そしてあそこが濡れ始めてしまう。

 昨夜などはそのせいで、一人悶々としながら自分で自分を慰めるしかなかったのだ。

「なるほど。やはり詩乃様も、千乃様と同じ嗜好をお持ちなのかもしれませんね」

 話を聞いたフェルステアは、顔色も変えずにそうつぶやいてみせる。

「やはり、ってなによ……?」
「いえ。ただ弱者をいたぶり優越感に浸り、性的快感を得ることは、我々の間でもごく自然のことです」
「でも変態みたいだし」
「では、千乃様もそうだと?」
「う、ううんっ! そんなわけないじゃない! お姉さま、あんなに格好いいのに!」
「そうですね。それは同感です」

 同意しつつ、フェルステアはしばし考え込んだ。

「……そうですね。まずは詩乃様ご自身に、自覚していただくのが一番でしょう」
「自覚っていうけど……どうするの?」
「実践すればよろしいかと」
「え? ひと、殺すの?」

 正気な状態でそれを言われると、さすがに抵抗がある。
 それを見とったフェルステアは、さらに考え込んだ。

「いきなり同族殺しはやめておきましょう。すぐにしたくなるでしょうが。……そうですね。ならば今回は他種族、ということで。なるべく小さくひ弱な存在を選びましょうか」

 そこでまじまじと、フェルステアは詩乃を観察した。

「え……な、なに?」
「悪くはありませんね」

 さほどファッションに気を遣わなかった姉とは違い、詩乃はどちらかといえばおしゃれな方である。
 そしてそれを活かす肢体も持ち合わせていた。
 今もラフな格好であるが、最低限、気を遣っていることも分かる。

「詩乃様、何かヒールのある靴はお持ちですか?」
「え? うん、ブーツとかなら持っているけど?」
「ではそれで」

 よく分からなかったが、詩乃はこくりと頷く。

「ただいま地下室にてご用意いたしますので、準備ができたらいらして下さい。……足元は汚れると思いますから、そのおつもりで」

 それだけ言い残すと、一礼してフェルステアは部屋を辞した。

「……地下室?」

 残された詩乃は、今さらのようにきょとん、となるのだった。

     ※

 この屋敷に地下室があることは知っていたが、物置か何かと思っていたし、入ったことも実は一度も無かった。

 ともあれ詩乃は言われた通りに、靴を選んで履き替える。
 この屋敷は西洋風ということもあり、日本ではめずらしく室内でも土足が基本だ。

 フェルステアなどはメイドの衣装に合わせるためか、エナメル製の、黒いパンプスを着用している。
 ヒールはそれなりに高く、細い。

 作業には色々不向きだろうと思いつつも、つい目で追ってしまうことも多かった。
 とても綺麗に履きこなしていると思ったからである。

 詩乃が選んだのは、昨年親に買ってもらったショートブーツだ。
 ヒールは太めなものの高く、ソールもそれなりにある。
 中学三年生の時の話で、当時の年齢を思えばやや背伸びした靴であったが、周囲の友人からはまずまずの評判だった。

「よいしょ……と」

 詩乃はそれまでホットパンツにニーソックス、そして足元は歩きやすいスニーカーであったが、それをヒールのあるブーツに履き替えたことで、よりいっそう、すらりとした脚を強調していた。

 健康的なその脚が、同学年の男子生徒の注目の的になっていたことは、実は知っている。
 その程度には、自己顕示欲も持ち合わせていた。

 あまり近づいたことのない地下室の入口まで向かうと、そこにはすでにフェルステアが待機している。

「準備、できたよ?」
「はい。では参りましょう」

 フェルステアがどこか重々しいドアを開け、中へとまず入り、先導した。

「すぐ階段になっていますから、足元にお気をつけ下さい」
「うん」

 ドアの向こうはすぐにもむき出しのコンクリートで、ひやりとした冷気が流れてくる。
 かなり深い。
 そんな下り階段を、踵を鳴らして降りていく。

 灯りなどは無かったが、フェルステアが手をかざすとぼんやりと光が生まれ、きっと魔法なんだろうなと勝手に納得しておくことにした。

 かなり降りたところで、また大きな扉があった。
 とても重そうではあったが、フェルステアは難なくそれを開ける。

「こちらです」
「えと、まだ下にも階段、続いているけど……?」
「そちらは千乃様専用です。こちらは詩乃様専用に、あつらえました。やや小さいですが、もし不都合があればまた大きくいたします」
「そう、なんだ」

 中に入れば思った以上に広かった。
 しかし何もない。

「電気は通っておりませんので、ご使用の際は私に申し付けて下さい。――明かりよ」

 フェルステアの言葉に従うように、壁にいくつもの灯りがともり、地下室を浮き上がらせる。

「ここで、何をするの?」

 詩乃はそう尋ねたが、分かってもいた。
 というか、期待していたと言った方がいいのかもしれない。
 だからこそ、中に何も無かったことに少し失望したのだ。

「そうですね」

 フェルステアは詩乃に一度背を向けると、何事かつぶやいた。
 そしてぼんやりと、コンクリートの床に何か魔法陣のようなものが浮かぶ。
 それはすぐに消え、代わりに何かが残った。

 にゃー。

 その鳴き声に、詩乃は意表を突かれてしまう。

「……猫?」
「はい。こちらの世界でもいる種族のようでしたので、召喚は容易でした」

 いつの間にか、フェルステアの足元には数匹の子猫が集まっていたのだ。
 どれもが小さく、可愛い声を上げ、フェルステアや詩乃を見上げている。

「召喚、って……。どこからか盗んできたってこと?」
「そうとも言いますが」
「へえ……凄いね。というか可愛いっ♪」

 カツカツとヒールを鳴らして歩みより、手近の子猫を抱き上げると詩乃はたまらず頬ずりした。

 まさに愛玩動物を体現したような姿である。
 詩乃はしばし我を忘れて戯れていたが、ややあって、世にも冷たい声がかけられたのである。

「では、踏み殺しましょうか」
「……やっぱり?」
「はい」

 分かってはいたのだ。
 フェルステアは詩乃の性癖を自覚させるために、実践すべきだと言っていた。
 そしてその対象は、まずは同族である人間は除外して、他種族でひ弱な存在でやってみよう、と。

 そして選ばれたのが、これらの子猫だったのである。
 これほど可愛いものを選んだのも、彼女がわざとしたことだろう。
 残酷さを、際立たせるため。
 フェルステアはあまり表情をみせないが、その性格はかなり残忍なのかもしれない。

「うー」

 一方で、詩乃は困り顔になっていた。
 まずは生き物を殺すという基本的な罪悪感。
 そして対象が可愛いがゆえの勿体なさ。
 しかしそれらを踏みにじってみたいという、歪んだ欲求。
 それらのせいで、なかなか行動に移せなかったのである。

「……仕方ありませんね」
「あ……」
「詩乃様を責めているわけではありません。これらの方が興がのるかと思った私の判断ミスでした。多少なりとも醜いものを、選ぶべきでしたね」
「……ごめんね」
「ですが問題ありません。すぐ、その気にして差し上げますから」
「――え?」

 詩乃が何を、と確認する間もなく、フェルステアの足が持ち上がる。
 純白のストッキングと、綺麗に磨きあげられた黒光りするハイヒールが、異様に怪しく詩乃の目に焼き付いた。
 そして、振り下ろされる。
 無慈悲に。

 ギャオンッ!

 フェルステアのすぐ足元にいた一匹が、子猫にはありえないような悲鳴を上げた。
 見ればその細い踵が背の部分を串刺しにして、地面に縫い付けてしまっている。

「あ……」

 その光景に、詩乃はどくん、と何かが脈打つのを自覚した。
 じたばたと暴れる子猫。
 しかしその子猫を串刺しにしているハイヒールは、びくともしない。
 絶対的な力の差。
 だと言うのに必死にもがく姿。
 じわじわと地面に広がっていく、赤黒い染み。
 気持ちいい。

 そんな詩乃の様子を確認しつつ、フェルステアは持ち上げていたハイヒールの爪先を徐々に地面側に倒していく。
 つまり、子猫の頭部へと。

 ギャウウッ!

 頭を圧迫され、子猫はさらに悲鳴を上げたが、もう誰も救いの手を差し伸べるものなどいるはずもない。
 詩乃ですら、その続きを見たくてぼおっとしてしまっていたからだ。

 ミシミシ……。

 何かが軋む音。
 それは詩乃にあの時のことを鮮明に思い出させる。
 あの男子生徒の頭を、千乃と一緒に踏み砕いた時のことを。
 そしてあの時、千乃には内緒にしていたが、たまらずにイってしまったことも。

 ミシ……ズシャ!

 そうこうしているうちに、子猫の頭部はフェルステアの体重に耐えきれずに圧壊した。
 血はあまり流れ出なかったが、代わりに目玉が飛び出しており、即死だろう。

「どうですか? まだ可愛いですか?」

 そんな子猫の死体を、フェルステアはこれみよがしに爪先で踏みにじる。
 バキバキと、さらに頭蓋が粉砕されていく音。
 そこには生前の愛らしさなど微塵も残っておらず、ただただグロテスクな肉塊があるだけだった。

「……可愛くない」

 その返答に、フェルステアは珍しく微笑んだ。

「では――もうできますね?」
「うん」

 ニャウニャウ!

 さっきから詩乃の腕の中で、抱きかかえられていた子猫が暴れていた。
 詩乃の様子の変化と、場のおぞましさに気づいたのだろう。
 だがもう遅い。

「まずはそれでやってみましょう」

 他の子猫たちは、とっくに部屋の隅まで逃げ散ってしまっている。
 となれば、詩乃への最初の生贄に誰が選ばれるかは、考えるまでもないことだった。

「こんな命でも、命は命。愉しいですよ?」

 フェルステアの誘惑に。
 詩乃はただ、頷いたのだった。

子猫を踏み潰すフェルステア【異世界転生帰還少女】
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足フェチ小説家。足フェチ、クラッシュフェチ、サイズフェチなひと。自慢の美脚と素敵なハイヒールで他人を踏みつけるのが大好き。Sっけ過多なので、妄想の中で蹂躙しています。
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