第3話 千乃の彼氏君

千乃のハイヒールでハードな足コキをされた挙句、オカズにされてしまう彼氏君
「どうしたんですか? 早く、綺麗にして下さい」
突き付けられたハイヒールの爪先を前に、東司は恐ろしいほどの葛藤の中にあった。
綺麗にしろと、千乃は言う。
この状況下でどうやってと、考えるまでもない。
舌を使えを言っているのだ。
土足を、舐めろ、と。
「……おかしいですね? 秋山君はこういうの、好きだと思ったんですが」
小首を傾げつつ、千乃は脚を組み替えた。
代わりに突き出された左足の爪先には、先ほど彼女が蹴り潰した男の一部――脳がこびりついている。
「ぐぁ……っ」
そのあまりのグロテスクさ耐えきれず、もう一度胃の中を吐き出そうとして――
「ごふっ!?」
「ああ、やめて下さいね? いくら彼氏君でも、あまり目の前で吐かれると、ちょっと幻滅します」
脳みそのついた爪先を突っ込まれた東司は、むしろさらなる嘔吐感に涙をこぼした。
が、千乃は一切の慈悲なく、グリグリとつま先をねじ込んで、その反応を見て愉しんでいる。
「ん……っ。いい、ですね。今の顔、ちょっと気持ちよかったです」
爪先が引き抜かれると同時に、東司は胃液の全てを吐き出していた。
「ふふ、可愛い」
幻滅すると言いながら、東司の醜態を見て薄く笑む千乃に、もはやまっとうな人としての慈悲を期待しても無駄であると、ようやく東司も悟る。
そうなれば、行動も早かった。
一通り吐き終えた東司は、率先して顔を上げ、舌を突き出してみせたのである。
「あらあら。そんな汚い胃液塗れの舌で、何を綺麗にしてくれると言うんですか?」
「ひぃ……?」
「まあいいです。そんなに舐めたいというのなら、どうぞ」
許しの言葉と同時に、東司は千乃のハイヒールに貪りついた。
まるで野良犬に舐められるかのような有様に、千乃はくく、と笑みを押し殺す。
「靴越しだというのに、何だかくすぐったいですね。ふふ、いいですよ。もっとむしゃぶりついて下さい」
東司は必死になって舐めた。
靴底に至っては、その幾何学模様を刻み込まれた滑り止めにこびりついていた先ほどの男の肉片を必死に舐め剥がし、一片も落とすまいと嚥下する。
しかしそんなことをすれば、舌などすぐにも傷だらけとなり、血が滲み始めるのも道理だ。
そして舐める対象が、真っ白なハイヒールだったことも仇になった。
舐めれば舐めるほど、赤く染まっていくのである。
その事実に、東司は恐怖した。
千乃の機嫌を損ねる。
そしてその結果は、紛れもなく無惨な死だろう。
事実、ため息が漏れ聞こえ、東司は身を震わせる。
「下手くそですね」
その一言とともに、すっと爪先が離れ――その刹那、猛烈な痛みが東司の鼻を襲ったのだった。
「うぎやぁ!?」
見れば、細いヒールが東司の鼻穴に突き刺さり、とめどなく出血を強いている。
無慈悲にもそのハイヒールを、東司の鼻に突き立てた結果だった。
しかしそれで終わらず、足首を回しながら、さらに奥へとねじ込んでいく。
「お仕置きですよ」
真っ赤に染まったヒールが引き抜かれると、まるで栓が取れたかのように、どばどばと出血した。
そしてその血は、地面にあるもう片方のパンプスを赤く染めていく。
「ふふ。悪くないですわ……」
もだえ苦しむ東司を睥睨しつつ、千乃は下腹部に感じるうずきに目を細めていた。
やや興奮しかけてきた自身の身体に、自然、手が伸びる。
組んでいた脚をほどき、解放された恥部へとそっと指をはわせる。
じわりと滲んだ感覚に千乃は満足すると、その場に立ち上がった。
「痛いのか、気持ちいいのか、わからないですわね?」
出血と激痛に苦しむ東司の股間眺めつつ、千乃は酷薄に笑う。
相変わらず限界までそそりたったそれに、しかし気をよくしたように、彼女は言葉をかけた。
「仰向けになって下さい」
できるわけがない。
両手を鎖で拘束されている東司には、無茶な注文だった。
また、ため息。
「仕方ありませんね」
物凄い音がした。
素手で鎖が引き千切られた音だった。
それを事も無げにやってみせた千乃はさあ早く、とばかりに爪先で小突いてくる。
東司は激痛を無視し、言われた通りに身体を翻して、あおむけになった。
こちらをのぞき込む、千乃の妖しい瞳が見えて、息ができなくなる。
「わたくしだけ、というのも何ですから、秋山君も気持ちよくしてあげます。……ですけれど、わたくしを振り落とそうとでもしたら、その瞬間に殺しますからそのおつもりで」
何を――と疑問を口にするよりも早く、千乃は右足を持ち上げていた。
視界一杯に広がる、ハイヒールの靴底。
そしてヒールのトップリフトが、あっという間に脳天に落ちていたのである。
「あがっ!?」
ピンポイントな痛みに、悲鳴を上げる。
「――そんなに身構えなくとも大丈夫です。体重増加の魔法はすでに解除してありますから。わたくし、けっこう軽いんですよ?」
また冗談のように言って、千乃は当時の顔面に全体重を移した。
一瞬だけヒールの接地した脳天部分に全体重がかけられ、頭蓋が軋んだもの、すぐにも爪先部分も接地し、体重が分散されて激痛が緩和される。
緩和されたといっても、片足で顔面に乗っていることには違い無く、酷い痛みが東司の頭を襲っていたといっていい。
「あ……が……!」
悲鳴も、ちょうど口の部分がハイヒールの爪先部分に圧し潰されており、呻き声しか上がらない。
これほど足場の悪い場所に、片足立ちをしている千乃のバランス感覚は驚異的ですらあったが、そんなことはさて置いて、千乃は足場となっている顔面が少しでも動かぬよう必死で耐えているところを見てほほ笑むと、ようやくもう一歩を踏み出してみせたのである。
左足が、胸に置かれる。
体重が右足から左足に移動し、細い踵が徐々に皮膚にめり込んでいく。
「まだまだ元気なようですね」
千乃の踏みつけた左足の下では、まさに心臓が脈打っていた。
それを靴底に感じながら、千乃はもう一歩、歩を進める。
右足が顔面から離れ、踵も彼の額から剥がれていく。
その瞬間、物凄い痛みがあったが、目を閉じずに遠ざかっていく靴底をしっかりと目に焼き付ける。
滑らかな曲線を描いたヒールブレストの部分が、異様に艶めかしく見えた。
なんだ、この感覚は――と東司が茫然と思った瞬間、その感触が全身を駆け抜けたのである。
「あ……っ」
千乃が次に踏み下ろしたのは、東司の固くなった股間だった。
その爪先が、固くなったモノの先端を踏みしだいている。
二、三回踏みにじった後、千乃は踵部分はそのままに、そっと爪先だけを持ち上げてみせた。
そこには大量の透明の液体が付着しており、靴底を伝ってヒール部分へと流れ込んでいた。
東司はどうにかしてその光景を目にしようと、必死になって顔を上げようとした。
が、二本のヒールに隠れて自分のモノは見えない。
「気持ち……良さそうですね」
瞬間、激痛と快感が東司を駆け抜けた。
今度は左足で、そそりたった先端部分を一気に踏みつけられたからである。
痛みと快感に、どうしようもなく東司は身じろぎする。
しかし千乃の平衡感覚を崩すには至らず、彼女は身じろぎ一つしない。
ただバランスを保つために、ヒール部分に体重移動していることが分かり、そのたびに酷い激痛に見舞われてはいたが。
「り、龍泉寺……っ」
股間の痛みが激しい。
しかしそれを凌駕する感覚に、東司は悶え始める。
「何です?」
「た、頼む……っ。もう、限界だ……っ!」
その告白に、千乃の口の端が歪む。
「何が、限界なんですか?」
分かっていて、問いかける。
小首を傾げて可愛らしく。
東司にしてみれば、拷問でしかなかったが。
「で、出る……! た、頼む、お願いだから……!」
東司には分かっていた。
ここで彼女の許可なしに果てればどうなるか。
「何が、出るの?」
千乃はまだ許してくれない。
その間にも彼女の左足は、絶妙な力加減で彼のモノに刺激を与え続けている。
「龍泉寺――いや、千乃、様……! お願いです! お願いですからもう――」
懇願する東司の姿をたっぷり一分間は堪能した千乃は、腕を組み、目を閉じて小さく頷いてみせたのである。
と同時にそれまで股間を踏みにじっていた左足が離れ、その爪先でちょん、とつついた。
「ああああっ!」
呆気なく、東司は果ててしまった。
身体の上に千乃が乗っているにも関わらず、上体を反らすようにして、大量の白濁液が放出される。
それらは全て千乃のドレスへと向かったが、届くことはなかった。
左足の靴底に受け止められて、阻まれたからである。
ぽたぽたとヒールを伝って落ちていく白い液体を眺めながら、よくできました、と千乃は微笑をみせた。
「はあっ、はぁっ――」
「いっぱい出ましたね。ちょっとびっくりです。そんなにわたくしが良かったんですか? それとも……わたくしの足の方ですか?」
「そ、それは……っ」
「まあ、どちらもわたくし、には違いありませんから、どちらでもいいですよ?」
と、千乃はその場で無造作に回れ右、をした。
「うぎゃっ!」
両方の爪先ににじられて、皮膚がこそげ落ち、血が滲み出す。
しかし千乃は意に介しない。
「さて、次はわたくしの番です」
「え……?」
「秋山君。まさか自分だけ気持ちよくなって、それで終わりとか思っていました? それはさすがに彼氏君、失格ですよね?」
猛烈な勢いで、顔を左右に振る東司。
「そうですか? 良かった。あ、気持ちよく、といっても自分でしますから、お気になさらないで下さい」
「じ、自分で……?」
「はい。ですけれどわたくし、自慰は得意ではなくて……今のように誰かの力を借りないと、ちょっとうまくいかないんですよ」
今のように。
その言葉に東司はぞっとなる。
「やはり一回では無理でした。ですから……もう少し、付き合って下さいね?」

その天使のような笑みを向けられて。
東司は果てしなく絶望することになるのである。
※
「ん……あああっ!」
どれほど時間がたっただろうか。
ばぎゃ!
「あぁああああ……うぅ……」
千乃は全身を震わせながら達していた。
股間からは狂ったように愛液が噴き出し、滴り落ちていく。
それらはぼたぼたと、彼女の股間の下にあった東司の顔へと注がれ、彼は彼で朦朧とする意識の中、必死にそれを舐めとっていた。
「……ふぅ」
息を吐き出す。
身体から力が抜けて、しばしぼんやりと、足元を眺めた。
そこには千乃の最後の一踏みにより、数センチ陥没したコンクリートの床と、その真横で涙しながら愛液を舐め続けている東司の姿ある。
「…………」
ぱさり、とまくり上げていたドレスを落とし、数歩前に進んで振り返り、改めて東司の姿を見れば、実に酷い有様だった。
千乃が快感を得るために優しく嬲られ続けた結果、両腕両足は完全に踏み砕かれてあらぬ姿となっており、無事な胴の部分も、何度もヒールの洗礼を受けて傷だらけで、中には貫いてしまった痕さえある。
肋骨も、ほとんどが骨折していた。
そして極めつけは彼の股間にあったモノで、数度にわたる彼女の執拗な刺激の結果、最後には弾けてしまったのである。
だがそれでも東司は生きていた。
千乃は最後の快感を得るために、東司の顔を踏み砕こうかどうか、最後まで迷っていたが、彼はそれを奇跡的に免れたのである。
幸か不幸かは知らないが。
「ふふ、合格です。秋山君。あなたをわたくしの彼氏君として、認めます」
その艶っぽい声に、全身がぼろぼろで、まさに死にかけであるにも関わらず、東司は興奮を覚えていた。
彼のモノが健在であったならば、きっとそそり立っていたことだろう。
「でも……ちょっと疲れました。フェルステア」
「はい。控えております」
その名を千乃が呼んだ途端、メイド服の少女が現れる。
入口から入って来た様子はなく、まるで突然現れたようであったが、そんなことを疑問に思う余裕も、東司には無かった。
「後片付け、任せます。それと秋山君の治療を。傷一つ、残してはいけませんよ?」
「――かしこまりました」
ぼんやりとする意識の中。
それが、その時東司が耳にした最後の言葉だった。

