第8話 デートの待ち合わせ
白のハイヒールパンプスで踏み潰されてオカズにされる憐れなナンパ男たち
今日は彼氏君とのデートの日である。
繁華街にあるおしゃれなカフェ。
待ち合わせまでの時間は、まだ一時間以上あった。
彼氏君も必ず時間より早くやって来るのだけど、私はいつももっと早くから待っていることが多い。
というのは、こうやって待っている時間も楽しいからだ。
待ち遠しい、というべきか。
今日も今日で、私はさほど着飾った姿はしていない。
シンプルなタートルネックのセーターに、これまたシンプルなロングスカート。
ただ足元だけは、ピンンヒールのパンプスを履いている。
ヒールの高さは十センチほどあるだろうか。
彼氏君の身長に合わせて、あまり高い踵の靴は履かないようにしているのだけど、彼氏君は是非履いて欲しいらしく、これまでプレゼントされた靴の中から一つ選んで、今日は履いてきた、という次第だ。
真っ白なハイヒール。
彼氏君は白が好きらしい。
この前プレゼントされたブーツも、白色だった。
まあ理由は分かる。
この白色が別の色に染まるのを見たいからだろう。
ああ見えて、なかなか歪んだ性癖の持ち主である。
「ふふ。まあ、私も好きですけれどね。この色」
グジリ。
微笑んで、ヒールを地面に立てつつ軽く捩じる。
軽くにじっただけなのに、石畳調の地面が削られ、穴が空く。
私の力が常人のそれでは無いことに加え、ピンヒールに一点集中される圧力の為せるわざだろう。
加減が難しいので彼氏君相手にはあまり使いたくないが、まあそれも気分次第だ。
にちゃり。
浮いていたソール部分を地面に戻せば、何とも言えない嫌な音がする。
ぐじゅり。
にちゃ……。
「こうやって待つのも嫌いではないですけど、こうも虫が寄ってくるとちょっと不愉快ですね」
今の私はまあそれなりにおしゃれな格好をしている。
すると当然目立つらしい。
しかもここは、定番のデートの待ち合わせスポット。
そんな所に長時間、一人でいれば、まあこうなる……というものだ。
「――ごめん! ま、待ったかな?」
そうこうしていると、息を切らせた彼氏君が全力疾走して現れると、ぜぇぜぇと荒く息を吐きながら慌てたように謝ってくる。
「あらあら。まだ待ち合わせまで三十分近くありますよ」
「で、でもエラ様……ええと、エラはもう待っているし……!」
「今日は気分が良かったので、何となくです」
「そ、そっか」
私の言葉に安堵した彼氏君だったが、すぐにもこちらの足元に気づいて目を見張った。
彼氏君がプレゼントしてくれたパンプスを履いているから――などではない。
そのパンプスが行ったであろう地獄絵図を目の当たりにして、驚いているのだ。
そう。
私の足元にはもはや元が何であったか分からない、ピンク色の肉塊と血だまりが複数できていた。
明らかに人間の残骸である。
私が踏み潰し、暇にまかせて踏みにじった、死骸だ。
「こ、これは……」
「待っている間、三人ほどに言い寄られまして」
「え、ええっ!?」
そんな反応が実に可愛い。
愛おしくなる。
「もちろん、お断りしたのですけど」
こんな所に一人でいれば、まあナンパされて当然、というやつだ。
実際されて、一応丁重にお断りし、それでもしつこかったので、魔法で小さくしてから踏み殺してやったのである。
といっても周囲は人だらけ。
というか店内である。
でもいつもの人避けの魔法を使えば、誰も気にしない。
だからこれだけの衆人環視の中で、堂々と人間を踏み殺すのも悪くない。
しかも小人と違って、小さくした元人間は、知性がある。
嬲り甲斐があるのだ。
そういうわけで、私に言い寄って来た二人は、念入りに殺してあげた。
本当ならば等身大でやりたかったけど、彼氏君を待っているのにそれではデートどころではなくなってしまう。
それでも彼氏君なら喜ぶかもしれないが、私は純粋にデートも楽しみたいのだ。
「あぁ……もう。そんなにして」
彼氏君には特例的に、私の魔法がかかりにくくなっている。
そう設定しているからだが、だから軽度の人避けや錯覚の魔法などは、通じない。
だから私の足元の惨状にもすぐに気づいたのだ。
カツンッ。
ニチャ。
ハイヒールパンプスを動かすだけで、踏みわけられた肉塊が嫌な音を立てる。
彼氏君の目の前に立った私は、傍から見ても分かるほどにズボンを膨らませている彼氏君の股間を、そっと撫でた。
途端に物欲しそうな顔になる彼氏君。
もう、このまま夜の世界に行ってしまいそうな雰囲気だ。
「駄目ですよ? 夜まで我慢して下さい。まずは普通にデートを愉しみたいんです」
もちろん、夜になったら朝まで寝かすつもりはないけれど。
「で、でも……」
彼氏君は真っ赤に染まったハイヒールに完全に目を奪われており、このまま放っておくと、自慰でも始めかねない雰囲気になりつつあった。
「まったく」
昼間から私に発情しないよう、身体のラインがでないような服をわざわざ選んだというのに、彼氏君たら血塗れのハイヒールだけでここまで興奮するのだから、救いようのない変態である。
ま、それがいいのだけれどね。
「仕方ありませんね」
ヒールを履いた私は、彼氏君よりも背が高くなる。
だから少しだけ上から、彼氏君の唇を塞いだ。
もっとも軽く舌で彼氏君の唇を舐めてあげただけ。
「ほら? 下を見て下さい」
「え……あ、はい」
視線を下に落とせば、足元には小人の姿があった。
が、正確には小人ではない。
小さくされた人間だ。
三人目の、である。
思ったより早く彼氏君がやってきたので、適当に処分しようかと思っていたのだけど、仕方がないのでこれを使って抜いてあげよう。
「ふふ……苦しそう」
ジリジリ……と、私は彼氏君のズボンのジッパーを下ろす。
慣れた手つきでその穴に指先を潜り込ませ、中のモノを取り出す。
社会の窓から顔を出したのは、随分立派なモノだった。
これまで私が散々可愛がってきてあげたせいか、長大で、逞しく成長した結果だ。
それが限界までそそり勃ち、びくびくと脈打っているのだ。
「一回だけ、イかせてあげます」
「エ、エラ様ぁ……」
「オカズもありますしね。といっても適当に踏み殺しますので、ちゃんと見ていて下さいね?」
ゆっくりと、右足を持ち上げる。
その足が履いているハイヒールも上昇し、その靴底に付着していた大量の血液がぽたぽたと落ち、またこびりついていた肉片も、足元にいた人間へと降りかかっていた。
「や、やめてやめてやめてやめて――――!」
恐慌状態となる小人はずっと懇願していたのだが、当然ながら余計な雑音はカット済みだ。
彼氏君には多少、キーキー騒いでいるだけにしか聞こえないだろう。
まず、そんな人間目掛けてヒールだけを落とした。
「ぐぎゃべ!?」
ピンヒールはあっさりとその胴を貫通し、ちょっと力を込め過ぎてしまっていたせいか、半ばまで地面を穿って埋まってしまう。
人間は必死になって、自分の腹に生えている柱となったヒールを引き抜こうとするか、まさに無駄な努力だ。
少なくとも、私の体重程度の重量をどかすだけの力が不可欠なのだから。
そして私がその人間を串刺しにした瞬間、彼氏君のモノがひときわ大きく震え、反応した。
可愛いくらい、分かり易い。
軽く、撫でてあげる。
あまり刺激を与えると、すぐにでも達してしまいそうだ。
それでもいいのだけど、まあサービスだ。
もう少し付き合ってあげる。
私はハイヒールの爪先で、串刺しになった人間の膝から下を踏みつけて、動かないように固定する。
さほど手加減もしなかったので、軽く体重を乗せただけでその人間の両足は粉砕された。
バギバギバギバギッ――と、とめどなく骨折の音が響く。
絶叫。
その音に、彼氏君がまた反応した。
「だめ。まだ早いです」
達してしまいそうになるのを、ついいつもの癖で止めてしまう。
ぎゅうぅぅぅ……とソレを握りしめ、尿道を塞いだ結果だ。
「あ、ああ、ああああっ」
彼氏君が切ない声を上げる。
「これからとどめを刺しますから、どうせなら一緒にイキなさい?」
爪先で固定した人間から、私は深く埋まっていたヒールを一気に引き抜いた。
ぶじゅわっ、と鮮血が溢れ出す。
「あぎゃぁあああ……!」
出血も夥しく、この人間はじきに死ぬだろう。
その前に殺す。
死骸を踏みにじっても、さほども面白くないしね。
腹に大穴をあいたことでもがく人間の頭付近を狙って、再び持ち上がったハイヒールの靴底が絶望の影を落としている。
「は、早くぅ……」
「あらあら。そんなに私に人間を殺して欲しいのですか? 彼氏君はひどい彼氏君ですね」
「あぅ……」
まだ罪悪感でも残っているのか、私が詰るように言えば、表情を複雑にして歪めてしまう。
「まあ彼氏君以外の人間などに、さほどに価値もありませんけれどね」
可愛い彼氏君の表情に、ではご褒美です、と私はハイヒールを思い切り地面に落とした。
今度はそれなりに力を込めて、である。
小さくなった人間の頭蓋が、石畳と靴底の間で耐えた時間は、ほんの刹那でしかなかった。
一瞬で圧壊し、内容物を撒き散らし、そして砕けた地面の中に押し込まれて、その人間の上半身だったものはこの世から消滅していた。
と、同時に彼氏君の尿道を塞いでいた指を解放し、代わりに睾丸を握りしめる。
結果は劇的で、物凄い勢いで白濁液が飛び出してきた。
「あらあら」
相当量の白い液体が、私の調整通りの角度で飛び出し、彼氏君の顔に直撃する。
届かなかったら興ざめだったけどれど、ちゃんと届いたようだ。
「ふふ。自分に顔射ですか? 器用ですね」
「はあぁあああ……」
脱力する彼氏君の顔に自分の顔を近づけると、私は舌を伸ばしてぺろりと舐めとってあげる。
ぴちゃり、ぴちゃりと丹念に、綺麗になるまで。
「少しは満足できましたか?」
「う、うん……」
「そうですか。良かったです」
最後に白濁液に塗れた自分の指先を舐めて綺麗にしつつ、彼氏君が落ち着くのを待つ。
「ご、ごめん……。いきなりこんなことしてもらって」
「いいですよ? 彼氏君が変態なのは知っていますし、そこが可愛いんですから」
では行きますよ、と腕をとって。
わたしはようやくデートを開始することができた。
席を立った後のカフェの座席の下には、小さくされた三体の人間だったものの残骸が散らばっており、私がいなくなれば魔法も消え、じきに衆目の元に晒されることになるのだろう。
もちろんそんなことは、私にとってはどうでもいいことであった。